「磐座の家」は京都に建てられた現代の数奇屋建築で、京都北部の住宅街にあります。周囲を住宅に囲まれているため、通りに面したファサードには木格子を備え、一方で内部空間は、家の中心に位置する中庭を各部屋から堪能できます。季節の変化を感じながら、自然との密接なつながりを感じられる空間となっています。
日本の木造建築の様式美と自然への畏敬が凝縮したこの空間のために、中村拓志氏とタイムアンドスタイルによって2年半の歳月を掛け共同開発されたダイニングチェアとラウンジチェアを製作しました。日本の木造軸組建築のように水平垂直に構成された小さな空間性を持つチェアです。
座り心地や使い勝手を追求し、正面に回りこむときにつま先があたる後脚や、座るときに踵が当たりやすい前脚を斜めにカットしました。これは、床柱の丸太の根本を斜めに面とりした「タケノコ」と呼ばれる意匠を思わせます。「タケノコ」部分は、着色の跡に研磨して再度塗装をする工程を経て、美しいカット面を作り上げています。
チェアの座枠から浮いたような意匠の座面は、フレームの各部材の太さや継ぎ方を計算し強度を確保することで、細い部材で構成されたチェアを実現することができました。
また、テーブル下の掃除がしやすいように、アームをテーブルに掛けてチェアを床から浮かせることができます。禅寺の修行の一つに掃除があるように、場を美しく清めることは、私たちがどう生きるかという哲学的で宗教的な実践であると中村氏は考えます。場を掃き清め、自然に合わせて暮らす、生活のためのチェアです。